不確実性の時代だからこそ“不屈の精神”を忘れずに
時候の挨拶文の書き出しではないが、「風薫る季節」とはよく言ったもので、呑み助にとって宵越しの深酒もどこ吹く風で、この季節は新緑の香りを運ぶさわやかな風とともに気持ちいい朝を迎えられる。そんな清々しい目覚めの朝には「今日も一日、元気で頑張ろう!」と思いっきり大きく深呼吸をしてみたくなるものだ。
だが、5月半ばの一週間を振り返ってみても、メディアが伝えるニュースといえば、秋篠宮家の長女「眞子さま婚約へ」という久々の吉報以外は「タメ息」が出るほど不安にかられる耳障りな嫌な話ばかりだ。14日の日曜の早朝には北朝鮮がまたもや弾道ミサイルを発射。その飛行時間は約30分間で、高度は2000キロに到達した後、日本の排他的経済水域外に落下したという。日本政府も国連安全保障理事会でさらなる制裁決議を呼びかけるなどの対応に大わらわだった。
今回の北のミサイルは、北朝鮮への圧力を強めるトランプ米政権をけん制する狙いとみられるが、そのトランプ大統領はロシアとの不透明な関係をめぐる疑惑が深刻化し、窮地に追い込まれている。政権運営が不安定になるとの見方が強まると、17日のニューヨーク金融市場は大幅な株安と円高・ドル安が進行。当然のように、東京市場にも飛び火して大波乱の相場となった。
疑惑で大揺れなのは米大統領だけではない。わが国の安倍晋三首相についても、明恵夫人が関与したと疑われている「森友学園」とは別件の新たな疑惑が浮上した。
首相の知人が理事長を務める岡山市の学校法人「加計学園」が国家戦略特区に獣医学部の新設計画をめぐり、「総理の意向」があったとも思えるような記録文書まで明らかになった。
その安倍首相は、警察などの捜査権限が広がり、一般市民への監視が強まる恐れもある「共謀罪」法案の成立とともに、憲法9条の改正についても執念を燃やしている。しかも、「2020年施行」との年限を区切った考えを安倍政権には極めて好意的な読売新聞の独占インタビューで発言し、物議をかもしている。
北のミサイル発射とも結びつく自衛隊の根拠既定の追加を含めた改憲問題については、国際政治学者でも憲法学者でもないのでうかつにも言えないが、一国民の目線からみると、気掛かりなのは日本の国がこの首相に引き続き任せても「大丈夫」と言い切れるだろうか。
私自身もそうだが、みなさんも「大丈夫」という言葉を使うときは、危なげなく確かで安心するという平常心を保っている場合が多い。中国・戦国時代の儒学者「孟子」の言葉によれば、「いかに富貴の快楽をもって暮らそうとも、自分の心までは堕落に導かず、逆にいかに生活に追われる日々であっても道義の道を曲げることは決してしない」。さらに「いかなる権威、武力を受けても屈することはしない」。このような”不屈な精神”を持つ人を中国では「大丈夫」と呼んでいるのだそうだ。
俗社会では、国会で苦し紛れの答弁を繰り返すキャリア官僚を例に上げるまでもなく、どうしても権威には屈せざるを得なく、泣く泣く心に反して「忖度」までしてしまう場合も少なくない。主義主張をはっきり述べて、人を導く立場のリーダーでも、世間の目が届かない所では裏社会の誘惑に負けて自身を見失ってしまうことも実に多いことだろう。
昭和を代表する演歌歌手の島倉千代子さんのヒット曲のように、「人生いろいろ、男も女もいろいろ」である。右を向いても左を見てもスマホを弄りまわしている電車内で、恥ずかしながら新聞や週刊誌を読もうとも、大型連休前に華々しく開業した「GINZA SIX」という銀座の新名所の商業施設に行かなくても、オヤジ族が集まる居酒屋で定番の「とりあえずビール」を注文しなくても、他人に迷惑をかけたり、傷ついたりする人がどれだけいるだろうか。「1億総活躍時代」の実現を目指すという政府の提案にしても、事なかれ主義の人たちはともかく、余計なお世話と思う人もいることだろう。経済を活性化させるにはみんなが同じ方向に進むよりも、それぞれが個性を尊重するこだわったライフスタイルを歩むほうが、効果があらわれるようにも思える。
不確実性の時代、生き残るための処世術としては道に沿った歩き方をすることも大事なことであるが、”へそ曲がり”とか”奇人変人”と言われようと、自分の信じている正しさを見極め、世の中の流行に惑わされず、一人自分の道を突き進む”不屈の精神”も忘れずにいたい。
ふく☆ぺん
駿河堂MaG編集部 編集顧問