「よせばいいのに・・」
聖火リレー “ごり押し”スタート
コロナ禍のお花見は、歩きながら。青山墓地にて、駿河堂マガジン撮影(3/25)。) | 春めいたポカポカ陽気が続き、満開の桜を眺めながら思いっきり背筋を伸ばして、日ごろ使わない筋肉を上手にほぐし、関節を刺激しながら血液の循環をよくしたいものである。健康を保つことは若さを保つことでもある。そのためには身体と頭をバランスよく働かせることは最も大事なことだろう。しかし、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に発令されていた緊急事態宣言が、3月21日に全面解除になったとはいえ、首都圏の飲食店などの時短要請がしばらく続くことが示すように、コロナ前の日常を取り戻すのはずいぶん先になるのだろう。 |
変異ウイルス、感染拡大の不安を抱えて
しかも、新型コロナウイルスの新規感染者数は宮城県が3月24日に過去最多の171人を記録するなど、全国的に横ばいから増加に転じているほか、感染力が既存株より強いとされ、重症化リスクが高いとみられる変異ウイルスの広がりも気になる。重症化と感染の再拡大を防ぐ効果が期待されているワクチン接種は、頼みの綱である海外からの調達が、欧州連合(EU)による輸出規制の強化などで当初の計画より遅れ気味で、高齢者からの本格的な接種開始は供給量が増える予定の5月以降にずれ込みそうだ。さらに、先行する欧米諸国や国内でも優先的に始まった医療従事者への接種データからは、ワクチンによってアレルギー症状を引き起こす「アナフィラキシー」などの副反応が確認された例もみられて、接種にも一抹の不安を禁じ得ない。 そんな新型コロナの感染者数が再び増加傾向となり、リバウンドの兆候が見られる中で、1年延期されていた東京オリンピックの聖火リレーが、福島県からスタートした。7月23日の開会式で国立競技場の聖火台で点火されるまで、47の都道府県を121日間かけて延べ1万人のランナーが炎のトーチとともに巡るという。
多くの国民は東京五輪開催に冷ややか
東京五輪・パラリンピック組織委員会などでは沿道の観客には密集を避けるように求め、マスクの着用はもちろん、大声でなく拍手で応援するよう呼び掛けている。それでも過度な密集が生じた場合には、感染拡大を防ぐために聖火リレーを中断することも考えているという。女性蔑視問題などで引責辞任に追い込まれた組織委員会の森喜朗会長の後任として急きょ抜擢された橋本聖子会長は「安心・安全の大会の東京大会を開催できるように全力を尽くす」と強調するが、不要不急の外出がままならぬコロナ下での強引とも思える五輪開催、その第一歩となる聖火リレーにも多くの国民が冷ややかな目で見ているのは当然だろう。
海外からの一般客の受け入れを見送る方針が決まった後の3月20~21日に実施した朝日新聞の全国世論調査では、東京五輪を「中止すべきだ」が33%、「再び延期すべきだ」が36%、「今年の夏に開催する」はわずか27%の回答だった。同様の世論調査はそれぞれの全国紙などでも定期的に実施しているが、ここ数カ月の調査結果でも今夏開催に否定的な意見が圧倒的に多い。
再び医療のひっ迫が懸念される
“機を見るに敏”とは、言い過ぎるかもしれないが、アイドルグループの「TOKIO」はじめ、歌手の五木ひろし、女優の常盤貴子、広末涼子や黒木瞳、落語家の笑福亭鶴瓶に将棋二冠の藤井聡太などのみなさんは聖火ランナーを相次いで辞退。理由は「仕事とのスケジュール調整がつかない」など、いろいろあるようだが、地元に縁のあるタレントや著名人が走れば、沿道に観衆が殺到するのは火を見るよりも明らかだ。1964年の前回の開催の時に「東京五輪音頭」を唄った歌手の三波春夫のお馴染みのセリフは「お客様は神様です」。客寄せパンダ的なタレントや著名人が無報酬でも走りたいと思うのは、沿道でその姿を見にやって来た多くのファンに喜んでもらいたいというサービス精神もあるだろう。ところが、見物人のファンが押し寄せれば感染リスクが高まるのは当たり前。懐疑的な世論の反応を考慮すれば辞退が相次ぐのは自然の流れだろうと思う。
年度替わりで歓送迎会のイベントが増え、マスクを外す機会も多くみられる。春休みに入り、地方の名所旧跡にも観光客が増えているという。感染者が増えれば再び医療態勢のひっ迫が起きかねない。どんなに優れたテクニックのドライバーでもアクセルとブレーキを同時に踏み込んでクルマを走らせることは不可能だ。多くの国民が不安を抱える中で聖火リレーのような五輪開催の見切り発車はあり得ないが、当初の「コンパクト五輪」から「復興五輪」、さらに「人類がコロナに打ち勝った証」などと、その場しのぎの玉虫色のビジョンに振り回されるのはもういい加減ウンザリだ。
ふく☆ぺん
駿河堂MaG編集部 編集顧問