コロナワクチンの接種と価値観の違い
古都・奈良の公園といえば、国の天然記念物に指定されている鹿(シカ)が芝生に横たわって休息していたり、愛くるしいしぐさでエサを求めて観光客にすり寄ってくる。「奈良のシカ」は「神鹿(しんろく)」と呼ばれて尊ばれているが、公園には1000頭以上が生息していることでも知られる。奈良公園のシカが新型コロナウイルスによる観光客の激減で、いわゆる「鹿せんべい」などのエサを与えられる機会が減って、周辺の山で草を探すようになり、最近は野生の状態に近づいているという気掛かりなニュースも目につく。
シカの話は本題とまったく関係ないので “シカト”するが、駄洒落はともかく、その奈良公園にある「猿沢の池」を詠った古歌に「手を打てば 鳥は飛び立つ 魚寄る 女中茶を持つ 猿沢の池」という、読み人知らずの句があるのをご存知の方もおられるだろう。この句のように手のひらをパンパンと叩く一つの行為も受け止める対象によってそれぞれ異なった判断をするものである。「千差万別」「十人十色」とも言われるように、それぞれの立場によって考え方、感じ方,処し方の異なるのは当然であり、価値観が全く同じものはないとも言い切れる。その価値観は、生きてゆくための必要上生まれてくるもので、相互の感情は大切にしなければならないことは言うまでもない。
ワクチン接種に消極的な人が4割弱も
やや回りくどい前振りになったが、内閣支持率が危険水域とされる30%以下に迫るほどに急落している菅首相が「国民が安心した日常を取り戻せるように全力で取り組む」と意気込みながら「一日百万回接種」、「7月までの高齢者接種完了」を掲げて、医療従事者などに続いて、65歳以上の高齢者にも始まったコロナワクチンの接種だが、そのワクチンについても、人によって価値観や捉え方がこんなにも違うのだと痛感させられる。毎日新聞などが実施した直近の全国世論調査では、自分が接種を受けられる状況になったら「すぐに接種を受ける」と答えた人は63%で過半数を超えている半面、「急がずに様子を見る」は28%、「接種は受けない」は6%だったという。意外だったのはワクチン接種に消極的な人が4割近くもいることである。
国や地方自治体などのホームページを見ると、ワクチンは免疫力を強くして重症化や発症を防ぎ、感染症のまん延の防止を図るための予防接種と記されている。だが、体内に異物を投与するため、接種後に腫れや痛み、発熱、頭痛などの副反応の症状が起こる可能性がある。さらに、まれに起こる重大な副反応としては、ショックやアナフィラキシーなどのほか、新しい種類のワクチンのため、これまで明らかになっていない症状が出る可能性があることも伝えている。かけがえのない命を定量的に表現することは慎むべきだと思うが、厚生労働省によれば、国内でもこれまでにファイザー製のワクチン接種を受けた約600万人のうち85人が尊い命を失ったという最悪の症例も報告されている。
葛藤が渦巻く中、ネットで予約
人間はそれぞれが思い固めて生きている生物であり、この思いをすべて手放せねばならない瞬間が死である。常に死を恐れ、なるべく遠ざかるように生きたいのは誰もが同じ思いであろう。勿論、ワクチンは本人の同意のうえで自主的に接種するものであり、国や自治体などが強制するものではない。新型コロナの感染症については「正しく恐れよう」などの耳触りのよい言葉も使われているが、考えても考え抜いても頭の中では、その葛藤が渦巻くのは仕方がないことだろう。
「恐怖の数のほうが、危険の数より常に多い」との格言もあるが、かく言う私も、年甲斐もなく臆病者であり、しかも大の注射嫌い。ワクチンの接種券が届いても開封するのも躊躇っていたが、「人生の達人」と尊敬する大先輩から「後悔先に立たず。副反応のリスクよりも接種もせずにコロナに感染して重症化すれば、大切な家族や医療関係者に心配や迷惑をかけるほうが辛くなる」と、たしなめられた。それでも一抹の不安が残るが、大先輩の言葉を心に留めながら、インターネットで予約を済ませた。1回目の接種に大きな問題がなければ、6月中には2回目の接種も終える予定なのだが・・・。
ふく☆ぺん
駿河堂MaG編集部 編集顧問