りゅうたの『百戒』 第2話
幾多の苦難を乗り越えてきたグレートマスター・男の黒帯りゅうたが、
百の戒めと共に貴方へ贈る、実にパッとしない人生教訓。
ここに示された戒めを胸に刻み、同じ過ちが繰り返されない事を切に願う。
「安いアパートに住むべからず」
恐かった。
吉祥寺に住んでいた頃のアパートは恐かった。
戦前からある古〜いアパートで、7部屋もあるのに住民はワシを入れて3人しかおらず、あとは「開かずの間」で真っ暗なのが恐かった。
7部屋しかないのにワシの部屋がなぜか「13号室」なのも恐かった。
夜中になると、その「開かずの間」から三味線の音が聴こえてきたりして恐かった。
その三味線、ものすごく下手クソな上にいつでもチューニングが狂ってて非常に聞きづらく、「やさしい三味線入門」をソッと開かずの間の前に置いておこうかと思ったほど恐かった。
ワシの部屋の食器棚の上(190cmくらいの見えない所)に、ザックリと錆び付いた包丁が突き刺さってるのも恐かったし、
他の部屋は家賃2万6千円なのにワシの部屋だけ1万9千円なのも恐かったし、
何で安いか不動産屋に聞いたら
「去年‥ここの大家のおじいさんが‥‥いや、まぁ大丈夫ですよ‥」
と、ラーメン喰った後にメンマが挟まったくらいの、
ものすごく奥歯に物が挟まった言い方なのも恐かった。
家賃は毎月1階に住むおばあさんのとこに払いに行くのだが、
ナゼかいつ行ってもこのバアさん、ドラエモンの静香ちゃんのごとく必ず入浴中で
「すいませーん」と言うと
「あ〜い、ぢょっど待っでで〜」とダミ声が聞こえ、しばらく待つと
「お待だしぇ〜」
バスタオル1枚を身にまとった即身仏のような85才の裸体を見せられるのも恐かった。
「やだぁ〜恥ずがじ〜」
頬を赤らめ恥じらう姿にいたっては、恐さを通り越して殺意さえ芽生えた。
隣の部屋には頭のハゲた40代後半のオジさんが一人暮らしをしていたのだが、
毎晩のように「シュ!シュ!シュ!シュ!」とナニかをコスり磨くような音が聞こえ、ノッてくると「ホ!ホ!ホ!ン!ン!ン!」と熱意あふれる息切れ、
そして最後
「ン!‥‥ア、アァ〜ッ!!‥‥」
と何か大変な事が起こったらしい雄叫びで静かになるのが恐かった。
いったいナニをあんなに一生懸命磨いていたのだろう?
しかし一番恐かったのは
建て付けが悪いせいで、共同トイレの鍵が締まらなかった事だ。
和式の便所で、こちらに背を向けて用を足す形のやつで、
時々酔っぱらってノックもせずにいきなり扉を開けてしまい、
そのアルマゲドンな光景に酸っぱい青春がこみ上げた事が何度かあった。
ワシもウンコをする時はかなりノケぞり、背後にある扉のノブを左手で必死に引っ張りながら右手で紙を巻き、人さし指でホルダーを押さえ親指と中指で紙をちぎるという神業をこなし、
そのせいかいつでも尻にウンコが挟まったような「拭ききれてない感」を味わいながら生きてきた。
おかげでギターの右手のピッキングはみるみる上達したが、
女の子から「りゅうたさ〜ん!」と声援をいただくと「尻の穴がカユくなる」という
人には言えない苦しみをいまだに背負ってステージで戦っている。
つらいんだよ、ワシだって。
あれ以来、共同トイレには二度と住まないワシだ。
そしてマイ・トイレを持つようになった今、
扉を開けっ放しでウンコをするクセがついちゃったりしたワシだ。
あぁ、この開放感がコワイ。
文:アブラ リュウタ
爆音FunkyおっさんR&Rバンド「アブラジョー(Aburajoe)」のギターヴォーカル。趣味は、ギターと自転車と温泉と酒と夏と海と猫と手羽先と蕎麦とオネーちゃん。鳥取県米子市出身。2月4日生まれA型。
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