着物の極意 ~3Kは、常識という幻想~
「着付け」、「価格」、「着る機会」の3K問題は、着物が日本の伝統文化であるにもかかわらず、日常から着物を遠ざけ、廃れさせる原因となっています。
加えて、欧米化が進んだ生活様式や、家族形態も変化した現代においては、着物が引き継がれるという風潮もなくなり、もはや日本人といえども、着物を着ること自体が難しくなっています。
危機感を強めている一部の着物業界では、比較的安価で、一人で着付けもしやすい浴衣などを、イベントの多い夏の時期に、便利でお手頃なセット(一式)にして販売するなどして、レンタル着物と同様に3K問題を解消するかたちで着物の普及に努めています。しかしながら、浴衣以外の着物においては苦戦していると感じます。
なぜ、浴衣以外の着物(以降、「着物」と省略)はなかなか普及しないのでしょう。
その理由は、3K問題から考えれば明らかなわけですが、ごちゃごちゃとその問題を挙げてもすぐに全て解決できるわけでもありませんし、着物を着るまでに長い時間がかかってしまいます。
ですので、私はこの際、その3K問題をスル~っと無視して、まずは自宅から自分で着ていける浴衣の形体そのままを、単純にスライドしてみることをおすすめさせていただきます。
(それでも、どうしてもにじみ出てくる3K問題は、後でぼちぼち考えて参りましょう)
浴衣と同じ着方をする
浴衣を自分で着ることのできる方は多いと思います。
帯結び(浴衣の場合は半幅帯)も、前で結んで形を整えて、くるっと後ろにまわして出来上がりです。結び方は、雑誌やネットでいくらでも紹介されていますので、初心者の方でも簡単です。この帯結びを、そのまま着物にも応用します。帯自体も、色さえ合えば、浴衣の帯をそのまま使ってみましょう。新たに用意される場合も、やはり半幅帯が結びやすいです。
着物は、その時の季節の寒暖に合わせて、一枚仕立ての単衣か、裏の付いた袷を選びます。自宅で洗える着物が便利ですが、基本は予算内で、あまり形式(小紋、つけさげ、訪問着など)にこだわらずに、着てみたいものを選びましょう。仕立てても、仕立て上りでもどちらでも構いませんが、仕立て上りの場合は、より自分のサイズに合ったものの方が、きれいに着られます。
ネットでも仕立ててくれるお店もありますし、リサイクル着物店などでは、良いものをかなり安価に購入することも可能です。
浴衣には唯一ないのが、「長襦袢」です。着物の下にもう一枚の着物を重ね着するような感じです。そもそもの役割が、めったに洗えない着物の汚れ(汗、皮脂など)を防ぐためのものですので、丸洗いができる着物の場合は、省くことも可能です。今では、丸洗いはもちろん、襟や袖の付け替えが簡単にでき、肌襦袢(下着)と一体化させるなど、便利でリーズナブルな長襦袢もありますので、心配ありません。
こうした便利なアイテムは、ネット上で探した方が早いです。
足袋、草履は、伸縮性のある足袋や、足袋型の靴下なども色柄豊富にありますし、ゴム底で歩きやすく丈夫なカフェ草履などで、楽しく軽快に歩けます。浴衣の時に履いた下駄でも大丈夫です。バッグなども、お手持ちの中から好きなものを合わせるので充分です。「和風」のバッグをわざわざ合わせる必要はないと思います。
さて、いかがでしょう。
「えっ、それでいいの?」と思われた方は、おそらく「着物の常識」のようなものに囚われていたのではないでしょうか。
夏の浴衣の季節以外に、京都や浅草などでレンタル着物で街歩きを体験した方はご存じかと思いますが、帯結びは浴衣と同じです。
着物となると、洋服よりも「きまりが厳しい」ように感じる方は多いと思いますが、それは幻想です。実際にごちゃごちゃうるさく言う人はいますが、着物が今の形になってからそれほど歴史があるわけではなく、その短い歴史の中でも変化しているわけですので、気にすることはありません。洋服にも日常着と礼装があって、礼装にはきまりがありますが、日常着は自由であるのと同じで、着物も日常着は自由です。
また、着物が特別で面倒、高価なものに捉えられがちなのは、着物の入り口が浴衣以外は「礼装」だった場合が圧倒的に多いためだと思われます。一年に、一回着るか着ないかという礼装の着物を最初にそろえると、それっきりになってしまいがちです。特に礼装時の「帯結び」にも原因があるのは間違いありません。日常着は、「お太鼓」に結ばなくても、浴衣と同じ帯結びでいいのです。
また、寒い時期などは、中にタートルネックのシャツを着てもいいですね。
東京在住。着物着付師資格を持つ。愛猫家。自宅で猫を飼う傍ら、近隣の野良猫の保護活動に協力している。趣味はコントラクトブリッジ。
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