「ふだん着」の着物で、いつもの街へ出かけよう!
着物が「普段着」という方は、かなり少ないと思います。国技である相撲の力士や、伝統芸能である歌舞伎の役者さんでさえ、普段は洋服が多いようです。洋服が一般に普及したのは戦後ですので、洋服が普段着となってまだ60年そこそこ、というところですが、そのわずかな間に、着物はすっかり「特別なもの」になってしまいました。
「浴衣は結構みんな着るじゃない!?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、浴衣は本来、素肌の上に直接着るものなので、入浴後に着用するようないわゆる「寝まき」であり、薄く風通しがよいため、夏場の外出着でもありますが、「略装」ですので正式な場所に着ていくのは失礼になってしまいます。夏にのみ活躍する、最もカジュアルな着物なのです。では、夏以外の季節と、夏でもホテルやレストランにも立ち寄れる普段使いの着物とはどんなものなのでしょうか。
私は、着物を「特別なもの」としてではなく、普段のファッションの一つとして取り入れていく試みとして、ここ何年か数人で「着物で飲み会」をしています。「食事会」という改まったものではなく、いつものカジュアルなレストランや居酒屋、焼き鳥屋などで一杯やります。着物を時々着ることで、着付けも上達しますし、いつもの一杯もより粋で新鮮に感じます。また、他のお客様の若干の視線が、所作にも心地よい緊張感を与えてくれます。先日も家族や仲間と下北沢を散策した後、お好み焼き屋で「飲み会」をしました。いつもの街やお店でのカジュアルな着物の雰囲気の写真をご覧ください。
着物を着て出かけてみたいけれど、「一人では恥ずかしい」「着物の選び方がわからない」「着付けができない」などの理由から、躊躇してしまう方は多いと思います。そういう方は、今回の飲み会での着こなしや、着物や帯、小物などの説明を参考にしていただいて、「ふだん使いのきもの」を一枚作られてはいかがでしょうか。着物屋さんにざっくばらんに相談してみてください。
一枚のきものをもとに、季節ごとの小物をそろえたり、着付けを練習したり手伝ってもらったりしながら、いつもの街へ出かけてみてください。いつもとは少し違う新鮮な気分や、流行やデザインを気にすることのない安心感と、きものは日本の文化であるという誇りを感じていただけることと思います。
>>> 60歳からのお着物
グレー調の泥染め大島紬にクリーム地のおしゃれ袋帯が映えます。秋、冬、春と季節を選ばず着こなせます。年配の方には絣の細かい大島紬が似合います。
帯締めは帯に合わせて、抹茶色とベージュの混。帯揚げは控えめです。草履もグレーに合わせて統一感を出し、落ち着いた感じにまとめています。
>>> 50歳前後からのお着物
紺の結城紬にゴブラン刺繍の名古屋帯。着物の色や生地が重いので明るい帯を合わせてバランスをとりました。今回の取り合わせは少し寒い時期が合いそうです。着物の裾回しと帯締めの色を合わせてアクセントにしています。
>>> 30代〜40代からのお着物
紬の生地に小さい跳び柄を染めた変わり種。真夏以外、気軽に着られます。全体柄の名古屋帯でクラシックな感じに。着物と帯が同系色のため落ち着いた感じになりましたので、その分、帯締めと帯揚げの色を合わせてアクセントに。さらに黒い草履とバッグで大人っぽさと都会らしさを演出。
>>> 30歳前後〜40代からのお着物
米沢の紅花紬。野菜の柄の名古屋帯を合わせて楽しさを演出。秋から春へと着られますが生地の感じや薄い色は春向きです。帯と草履を黒で揃え、着物の薄い色をひきしめています。
>>> 20代のお着物
小千谷紬に紬の袋名古屋帯を合わせて、色も淡く春向きなイメージで。着物と帯が同系色なので軽やかな感じにまとまりました。小千谷紬は秋から春まで(単衣にすれば6月や9月も)着られますので、帯の色や生地で季節感が変わります。赤い巾着バッグで若々しさを演出。>>> 男性全般[1]
鉄紺色の紬の着物と羽織です。暑くはない時期の定番です。>>> 男性全般[2]
無地の大島紬を着流し姿で。生地も色も薄く、角帯も薄物で身軽な感じにまとめました。文:清水屋の若旦那
撮影協力:ニックンロール、古無門
世田谷区弦巻の呉服店「清水屋」(昭和41年創業)の2代目。きもの屋業はもちろん、着物に関係する染色工場見学や、日本橋界隈の老舗和食店めぐりなどのミニツアーも企画する。煎茶道の師範でもあり、美味しいお茶とお菓子をふるまいながら、きもので過ごす楽しさを広めている。
〉関連情報
清水屋:東京都世田谷区弦巻3-11-12 TEL 03-3428-2672
R29 ニックンロール:http://nikkunroll.com
古無門(こなもん): http://r.gnavi.co.jp/g342611/