ヘルシー志向の中華旬彩料理店
「東方紅」代表 梁 楽耀さんを直撃
世界の三大料理として日本のグルメにも幅広く好まれている中華料理。だが、中華の歴史は古く、その食材や味付けの技法は種類が多く奥深い。首都圏の有名百貨店などを中心に中華惣菜と中華レストランを展開する「東方紅」(本社・川崎市)は、旬の食材をたくさん取り入れた季節メニューが評判で、ヘルシー感覚の「中華旬彩料理」は若い女性から年配者まで幅広い顧客層に喜ばれている。
今回の “フード・ビジネス探検隊” は、その「東方紅」を経営する中国・湖北省出身の青年実業家・梁 楽耀(りょう らくよう)さん(37)がゲスト。この春オープンしたばかりの東急田園都市線・大井町線二子玉川駅前の「ライズ・ドッグウッドプラザ」内にも出店。このモダンで清潔感のあふれる「東方紅」店内で、日本でチャレンジする動機から今日までの道のり、また、今後の出店計画などについて、流ちょうな日本語で語ってくれた。(聞き手:高桑 隆/日本フードサービスブレイン代表)
中国・湖北省出身の青年実業家
高桑 中国生まれの梁さんが日本で本場の中華料理を始められるまで、どのような経緯があったのでしょうか。
梁 私は湖北省・武漢の生まれです。学校を出てからしばらくの間、中国で電気関係の仕事に従事していました。3人兄弟で、すでに兄と姉も日本で生計を立てており、私自身も、とにかく日本にあこがれていて、兄や姉みたいに、日本へ行ってみたいと思っていました。一念発起したのは9年前、28歳のときでした。最初は、兄が埼玉の川口で中華料理店をやっていたので、まずは、そこに身を寄せることにしたんです。
高桑 自然なほどの流れがもう、そこにあったのですね。お兄さんの店はどんな中華料理店ですか。
梁 中華でもラーメンと餃子が中心のごく普通のリーズナブルな店です。でも、そこでは日本で飲食関係の店を開くことはどんなものかというような漠然としたことですが、感覚的なノウハウは身につけることができました。次に転機が訪れたのは、台湾出身の知人との出会いからです。その彼の紹介で、中華惣菜のテイクアウトの店を始めてはどうかと勧められました。
溝の口でテイクアウトの中華惣菜から出発
高桑 最初はどこで始めたのですか。
梁 1号店は溝の口駅前の丸井ファミリー溝口の地下、まるい食遊館。平成15年のことですが、お陰様で立地に恵まれていて、集客力は抜群。オープン当初からお惣菜が飛ぶように売れました。現在も中華惣菜の店を継続していますが、姉に権利を譲渡しています。次いで立川駅の「ルミネ」にも出店したところ、ここも大繁盛しました。
高桑 現在、お惣菜店は何店舗展開していますか。
梁 3年ほど前から、運営母体を個人事業主から株式会社に組織変更したんですが、お惣菜店はその後、相模原市の橋本駅の「mewe橋本」や「大丸ららぽーと横浜店」、大船駅の「ルミネ」、さらに、蒲田駅ビルの「グランディオ」などにも出店しており、今のところ7店舗になります。
高桑 テイクアウトからスタートして、今度は中華レストランへと事業を拡大するわけですね。
梁 そうです。最初のレストランは2年前で立川駅前の高島屋デパートにある「ガーデンテーブルズ」内で開業しました。当時は金融危機などの影響でデパートへの客足は減って、どうなることかと心配していましたが、そんな不況風もどこ吹く風で、私どもの中華レストランは連日大にぎわいです。
日本人の心をつかむ「中華旬彩料理」
高桑 中華料理は、寿司や天ぷらなどのように、多くの日本人に好まれていますが、カウンターだけのラーメン店のような小規模の中華飯店を含めるとどこの街にもたくさん見かけますね。それだけ競争は激化していますが、「東方紅」さんが繁盛している秘訣はなんでしょうか。
梁 まず、メニューにも「中華旬彩料理」と明記しているように、肉や野菜などこだわった旬の食材を取り入れた季節限定の料理を提供していることだと思います。従来の中華料理はラードの油などで炒めたりしてボリューム満点というイメージが強かった。しかし、カロリーを気にされる若い女性やお年寄りの方には中華に限らず脂っこい料理はあまり好まれない。日本人のヘルシー志向は高まるばかりで、そこで日本人の心をつかめるような「健康で美味しい中華」を追求したレシピを多く取り入れることにしたんです。例えば、「おこげ」の料理などが人気なのは、家庭ではなかなか作れないプロの料理人の創作メニューだからです。
高桑 中華でも和食感覚で賞味できるというコンセプトですね。
梁 そのとおりです。多くの種類を美味しく食べてもらえるように、単品の量をやや少な目に、値段もリーズナブルになるよう工夫しています。例えば、1人分の麺の量は、通常なら150-180グラムですが、「東方紅」は110-130グラムにしています。しかも、立川店とこの二子玉川本店で中華旬彩料理を提供していますが、どちらの店でも8割が同じメニューで味は統一されています。厨房の料理人は10年以上のキャリアのベテランの中国人を採用していますが、彼らは「自分の料理が一番」だというプライドを持っています。それでは味付けがばらばらになってしまう恐れがあるので、最初からレシピを統一しておかなければなりません。
高桑 飲食の世界では大切なことです。味を統一させることはリピーターを増やすための必須条件ですからね。
梁 もちろん、料理の味付けも大切ですが、店内のサービスについても、接客マナーなどにも気を配るように教育を徹底しています。
来年(3月予定)にはアーク森ヒルズ内にもオープン
高桑 ところで、この二子玉川本店は3月17日がオープンでしたね。
梁 多摩川を挟んだ向こう岸の川崎が住まいで、二子玉川には、家族でよく出掛けていました。駅前の大規模再開発の工事を眺めているうちに、この馴染みのある場所で出店できたらいいな、と真剣に考えるようになったんです。ただ、オープンが東日本大震災の直後で、一時はどうなることかと思っていましたが、5月ごろからはショッピングセンターへの来客も増え始めているのでひと安心です。それよりも、震災のあとでも中国人スタッフが誰一人、帰国しないで頑張ってやってくれているのには感謝しています。
高桑 それは良かった。横浜の中華街では逃げ出した料理人がたくさんいて、しばらく店を開けなかったという話ですからね。今後の出店計画を聞かせて下さい。
梁 直近で決まっているのは、来年(3月予定)に赤坂のアーク森ヒルズ2階のレストラン街で中華旬彩料理「東方紅」の3号店をオープンさせる予定です。
高桑 あの周辺は官公庁や外資系企業も多く、ビジネスマンの接待会食など法人需要も期待できると思います。
梁 「東方紅」という屋号は、「太陽が昇る方角」という意味で中国でも縁起がいい言葉です。屋号に恥じないように、恵まれた物件で資金調達の面で無理がなければ、今後も新しい店を増やしていくつもりです。
高桑 頑張って下さい。上昇気流の梁さんの夢は、さらに膨らみそうですね。
インタビュー:高桑 隆(日本フードサービスブレイン代表)
オーナーの梁楽耀氏は、来日してまだ10年もたたないのに、既に9店舗の中華料理店と、中華総菜持ち帰り店を経営している。資本関係などの詳細は存じあげないが、それにしても個人事業の発展としては、立派な業績だと感心せざるを得ない。
インタビューの中で、特に感心したのは、「立川高島屋」に出店している、中華料理店、「東方紅・立川ガーデンテーブルズ店」に話が及んだときである。
立川高島屋は、首都圏高島屋グループの中で、決して業績が良い百貨店とは言えない。しかしその中で、飲食店としてトップクラスの売上を上げていると言う事実に驚かされる。恐らく顧客の目には、“高島屋にある高級中華料理店”と映っているに違いない。
立川は、多摩地区の中核都市として大発展してきた街だ。しかし、残念ながら青梅線や南武線からの乗降客は、JRの駅中を回遊するだけで、立川の商店街へはあまり出ては行かない。故に、立川ルミネはJR東日本社のドル箱店舗であり、あまりの繁盛ぶりに「グランデュオ」という第二駅ビルまで建設してしまった。そのなかで、立川高島屋は駅から遠く、立地的に不利な状況に置かれている。しかし、100年以上続く老舗、国内屈指の高級百貨店である。そのブランド力は落ちていない。数は少ないが、多摩方面の上質な顧客を相手に威厳を保ったビジネスを展開している。
本格中華料理は、日本人の食卓では依然として “ごちそう” である。しかし、その潜在する膨大なニーズ(顧客需要)に対して、応えることが出来ていない。それは、いまだに使用されているラード油による「油通し」に問題がある。もう一つ業績が振るわない原因は、“本格中華” の「本格」と言う、伝統と格式に胡坐をかいた、革新性・創造性の欠如にある。「東方紅」は、それらを突き破り、高級百貨店においても本格中華料理の新たな地平を見せてくれた。
「東方紅」で使用している油は、「キャノーラ油」という “軽い食材” である。これにより中華料理のおもたさがとれ、再び “ごちそう感” のある高級料理として蘇った。数品試食させていただいたが、デシャップ(料理の盛り付け)の創造性も、並はずれて素晴らしいレベルである。
立川での成功は、高島屋と言う舞台と、「東方紅」という高級中華料理店とのコラボレーションが見事に花開いた結果だと言えよう。大震災後にオープンした二子玉川店も好立地で、立川しのぐほどで楽しみな店だが、これら全ては、梁楽耀氏の素晴らしい経営手腕のたまものであり、今後の大いなる展開に期待がもてそうだ。
〉関連情報
東方紅・二子玉川本店:http://www.dogwood-plaza.com/shop/705.html
東方紅・立川ガーデンテーブルズ店:http://r.gnavi.co.jp/e544908/