新たな日常の「気の緩み」
「夜の繁華街」感染拡大の恐れ
「新しい生活様式」を“勘違い”しているのは私のような臆病者だけなのだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の「緊急事態宣言」が、5月25日には全面解除され、「特定警戒都道府県」の東京や神奈川、千葉、埼玉の首都圏と北海道でも条件付きで自粛要請が解かれた。1週間後の6月1日からは、休校が続いた学校も各地で開校となったほか、感染者数が最も多い東京都でも「ステップ1」で認められたイベント施設の開催条件や飲食店の午後10時までとする営業時間は変わらないが、映画館や学習塾、スポーツジム、生活必需品以外を扱う商業施設の営業も認める「ステップ2」へ移行した。
「東京アラート」発動、再び外出自粛呼びかけ
そこで気になるのは大幅に緩和された後の全国の主要都市での人出である。ニュースでは当然のように繁華街や観光地などに人出が戻り始めたと伝えている。緊急事態宣言が全面解除されてから初の土日となった5月30、31の両日は、新幹線や特急の利用は前の週に比べて4割以上の増加、東京の新宿駅や銀座駅では6割を超えるなど、それぞれ人の移動が増えていたという。
なかでも、百貨店や大型複合施設が営業を再開した銀座では、都外からの来訪者が約2万人となり、都民を含めた全体の人出は44%増の約5万人に上ったそうだ。東京・上野のアメ横商店街や、若者でにぎわう原宿・竹下通り、渋谷センター街でも都外の人が3~4割増えたというデータも明らかになった。その東京は「ステップ2」に移行した翌日には「東京アラート」を初めて発動する始末。新型コロナウイルスの感染で再拡大の兆候が見られるとして、都民に「夜の繁華街」への外出を控えるよう警戒を呼びかけた。
一方、5月21日に宣言が解除された大阪府でも、増加が顕著。周辺に商業施設が多い大阪の梅田駅では、全体の人出が前週比48%増の約12万人、うち府外からの来訪者は56%増の約4万人だったという。
週明けの月曜日(6月1日)午後から、テレワークでは無理な仕事の打ち合わせで東京の日本橋まで出かけたが、夕方の地下鉄・銀座線はコロナ前とほとんどかわらない混雑状態だった。多くの企業が手探り状態で導入した在宅勤務だが、「原則」から「必要に応じて」に変更されたために、都心のオフィスにも通勤客が戻ってきたのだろう。
感染拡大の「第2波」「第3波」に警戒感
緊急事態宣言の解除は、飲食店などの休業要請を緩めて経済活動を活性化するのが狙いであり、電車内や繁華街などで人出が増加することはやむを得ない。このまま消費が上向かなければ、コロナ倒産や失業・休業者が爆発的に増えて国の経済自体が崩壊するリスクを抱えているからだ。一方、解除後も気を緩めると感染拡大の「第2波」「第3波」が押し寄せてくることも確実だ。再び感染者が急増すれば、患者の命と向き合う医療従事者の負担は限りなく増大し、病院内では一般の患者と陽性患者との隔離が必要で、病床のひっ迫も招きかねない。この数か月間の自粛要請で、なんとか食い止められた”医療崩壊”という最悪の危機が現実になるとも限らない。
余談になるが、政府が発令した「緊急事態宣言」の解除という表現は、言葉の流れとしてはわかるような気もするが、いったん「宣言」してしまったことを解除できるわけもなく、誤解を生じやすい。要するに宣言の結果としての事態の解除、「緊急事態」を解除するものであり、どうしても「宣言」を使うのであれば、改めて「緊急事態解除の宣言」が正しい表現ではないだろうか。しかも、「全面解除」も明らかに間違いであり「全国的に段階的解除」という表現ならば理解できるが、事実、全面解除のつもりで気を緩めて普段通りの活動を再開したことで、北九州市のようにクラスター(感染者集団)が発生して大騒ぎになっている例もある。
メディアの世論調査では、新型コロナについて.不安を「大いに感じる」「ある程度感じる」との回答が9割以上に達した一方で、緊急事態が全面解除され、感染防止への気の緩みを「感じる」との回答も8割を超えたという。コロナ禍との闘いは終息したわけではない。無観客試合とはいえ、スポーツファンには待望のプロ野球やサッカーJリーグなども開幕する予定だ。繰り返しになるが、ここでもう一度フンドシを締め直し、特効薬や有効なワクチンが開発されるまではその恐怖と向き合い、「3密」を避けながら自らの「新しい生活様式」で命と暮らしを守るほかにはないだろう。
ふく☆ぺん
駿河堂MaG編集部 編集顧問