「我々も、こんな人たちに任せるわけにはいかない」
「人の噂も75日」という昔から聞く言葉がある。思い返せば、1年前は、任天堂のスマホ向け人気ゲーム「ポケモンGO」が日本にも上陸して猫も杓子も大騒ぎしていたが、のど元過ぎれば熱さを忘れたのか、今では話題になることもほとんどない。だが、前回のこのコラム(5月20日掲載)でも少し触れたが、安倍晋三内閣を揺るがしている首相夫人が関与した疑いのある「森友学園」問題とともに、首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設をめぐる疑惑は、じっと我慢して時が過ぎれば忘れ去られてしまうほど生易しいものではないようだ。
7月2日の東京都議会選挙ではおごり高ぶった安倍政権に都民が厳しい視線でレッドカードを突きつけて、自民党が大敗した。都議選最終日、若者が多く集まる秋葉原での街頭演説では、対立候補の応援とみられる聴衆?からの「やめろコール」に対し、「こんな人たちに、私たちは負けるわけにはいかない」と、攻撃的な首相が上から目線で反論した。一国の首相とは思えない謙虚さに欠く、傲慢な態度に多くの国民が不信を抱き、都議選で自民党が惨敗したのは当然の結果だろう。
その後、首相は「自民党への厳しい『叱咤』と受け止め、深く反省している」と述べ、藪の中の疑惑問題などの真相解明についても「丁寧に説明する」ことを約束した。
しかし、直近の世論調査での支持率は下がるばかりだ。強権的な手法で成立させた「共謀罪」法をはじめ、相次ぐ閣僚の資質が問われる失言やワイドショーの格好のネタにもなったチルドレンたちの不祥事・暴言には開いた口がふさがらない。7月17日付の東京新聞などメディアに掲載された共同通信社が実施した全国電話世論調査によると、安倍内閣の支持率は前回6月時点より9.1ポイント減の35.8%と、第2次安倍政権発足後で最低を記録した。しかも、不支持率は10ポイント増え、53.1%となった。不支持の理由を「首相が信頼できない」としたのは51.6%に達した。そして、低下の大きな要因の「加計学園」問題めぐる政府側の説明に「納得できない」は77.8%。「納得できる」は15.4%にとどまったそうだ。
さらに、時事通信社の世論調査では、安倍内閣の支持率は前月比で15.2ポイント激減して29.9%。不支持率は14.7ポイント増の48.6%になったという。”危機ライン”とされている内閣支持率が30%を割り込んだことで安倍首相の求心力が低下するのは避けられない情勢である。近く内閣改造も予定されているようだが、一般の国民から信頼されないトップリーダーが引き続き政権を担うことには無理がある。今後の政権運営は一段と厳しさを増してくるだろう。
「正義の伴わない力は暴虐である」
「力満つれば人自から従う」。または「正義の伴わない力は暴虐である」とも言う。政治家でも会社の経営者でもトップに立つ者にとって従う人の多いことは最も理想とするところだ。しかし、これまで多くの政財界人に取材で接する機会があったが、力で人を動かしても一時的なものであり、決して長続きしない。トップに立つリーダーが自覚するべきことはモラルであり、つまり品性の有無が最も大きく左右するのではないかと思う。品性のない人が「俺について来い」と肩ひじを張って叫んだところで誰も従う人は無いだろう。実力に満ちていても有頂天にならず、常に謙虚な心を持ち続けていれば、褒められようとけなされようと、大きな動揺は起こらないものである。品格のある人は、いたずらに権力の乱用はできるものではない。大きな権力を持つ人こそ、正しい権力をほんの少しだけ軽く使用するものである。
「ひとり人を殺せば殺人になるが、100万人を殺せば英雄になる」とは、権力の乱用を社会風刺した喜劇王・チャップリンの傑作映画「殺人狂時代」のラストシーンでのお馴染みのセリフである。100万人どころか、誰もが活躍できる「1億総活躍社会」の実現をめざす”英雄”気取りの政権も、多くの悲劇を生むような権力の乱用にならなければいいのだが、と胸を痛める。
ふく☆ぺん
駿河堂MaG編集部 編集顧問