今夏の終わりに想うこと・・・
外国人ツアーで大賑わいの北の大地
長い夏季休暇を終えて、再び職場に復帰された社会人たちも多いことだろう。今年の夏は、全国各地で記録的な豪雨に見舞われるとともに、7月は北海道でも最高気温が35度を超える猛暑日も相次いだ。8月に入ると一転して、東日本の太平洋側を中心に肌寒い雨の日が長く続き、海水浴場や屋外ビアガーデンなどは閑古鳥が鳴く始末。8月の長雨は、7月の猛暑による消費の底上げ効果を相殺したという専門家の分析結果もあるほどだ。
日本の夏の風物詩、風鈴で涼しさを演出する観光地。 | 予測不能な天候不順では、例年、暑くなればなるほどよく売れるはずの “夏物商戦”に異変が起こるのはやむを得ないことだろう。だが、異常気象とはあまり関係なく気になるのが日本の観光地を訪れる旅行客の様変わりぶりである。“サンデー毎日”の生活パターンを繰り返し、第一線から身を退いたシニア世代にとっては、春の大型連休や夏の繁忙期の旅行は御法度。交通機関も観光名所も混雑して何かと費用も膨らむことから、この時期は遠出を避けるのが鉄則だが、どうしても義理を欠かせない冠婚葬祭などの用事ならばそう言ってもいられない。 |
私事で恐縮なのだが、柄にもなく名古屋にいる甥が北海道の風光明媚なリゾートの「森の教会」で結婚式を挙げることになり、それがきっかけで、8月上旬から中旬にかけて北の大地をドライブ旅行した。出発は東京の羽田から函館空港に降り立ち、そこでレンタカーをチャーター。函館では定番の観光コースではあるが、幕末動乱の歴史的な舞台にもなった「五稜郭」をはじめ、函館山の麓から港へのびる坂道に旧ロシア領事館や函館ハリストス正教会などの古い建造物が並ぶ元町エリア。さらに、新鮮な海産物がそろう魚市場のある函館港に沿って立ち並ぶ赤レンガ倉庫などを散歩した。
2日目は、函館から道央自動車道をひた走って札幌方面へ。運河沿いに繁栄した小樽の町やニッカウヰスキーの蒸留所のある余市なども見学した。3日目以降は、結婚式を挙げたリゾート施設のある苫小牧からアイヌ民族博物館の白老、2008年当時の福田康夫首相時代にサミット(先進国首脳会議)が開催された洞爺湖、さらに、日本有数の温泉郷として知られる登別温泉などにも足をのばした。
これ以上、私ごときの何の変哲もない“どさん子旅日記”を披露するつもりもないが、今回、北の大地の観光スポットを訪れていちばん印象に残ったのは、日本人の観光客と出会う機会が極端に少なかったことである。夏の北海道はベストシーズンだけあって、さすがに観光地の駐車場には大型観光バスが何台も並んでいたが、バスから降りてくる観光客たちは、中国や韓国、台湾、さらに東南アジア系と思われる胸に旅行会社のバッチをつけた外国人ツアー客ばかりだった。団体ツアーだけでなく、個人旅行とみられる欧米系の外国人ファミリーやレンタカーで走り回るアジア系の若いカップルたちもよく見かけた。
「自宅でゆっくり」情けない日本人の夏休み
旅の途中、「ここは異国の地ではなく、日本の北の大地だ」と、幾度も頬っぺたを引っ張って確かめたくなるほどだった。それも道理、観光庁がこのほど発表した2017年上半期(1~6月)に日本を訪れた外国人旅行者は1375万7300人で、前年同期に比べ17.4%も増えて過去最多を記録したという。なかでも、格安航空(LCC)の増便を背景に、韓国からは42.5%増の339万5900人、次いで中国が6.7%増の328万1700人、台湾も6.1%増の228万8000人。インドネシアやロシアも前年同期に比べて高い伸びを示したそうだ。
この統計からもわかるように、右を向いても、左を見ても、外国人とすれ違うのも、なるほどと納得する。しかも、訪日客の消費額は上半期の累計で2兆0456億円となり、初めて2兆円を突破したという。苦戦する地方都市の景気を押し上げる経済効果にプラスになるなら喜ばしい限りだ。
それにしても、日本人の観光客はどこへ消えたのだろうか。とくに、夏季休暇を利用しなければ、なかなか遠出ができない学生や働き盛りの若者たちの姿が見当たらないのは何故なのか。素朴な疑問のようだが、気掛かりでもある。
その答えのヒントになるような調査結果が発表になった。明治安田生命保険が7月、全国の20~50代の男女を対象に「夏休みの過ごし方」についてアンケート調査を実施したところ、「自宅でゆっくり」と答えた人が74.6%にも達したそうだ。ちなみに、国内旅行35.6%、海外旅行になるとわずか10.5%と少なかった。しかも、どこにも行かない理由を聞いたところ、「暑いから外出したくない」や「疲れをとりたい」と答えた人もいたが、過半数以上の52%の人が「出費がかさむので」と回答したという。
アンケート調査からは旅行が好きでも金銭的な事情などで、行かれない人もいるようだが、驚いたのは「自宅でゆっくりしたい人」が大半を占めて、「井の中の蛙」が増殖中とは実に情けない。もっとも、旅に出たからといって凡人が天才となって帰るものではない。しかし、ところ変われば品変わると言われるように、旅行の大きな意義は未知の世界との出会いから感動や驚きによって、自分の足元ばかり見ていた人でも大局的に物を見ようとする新たなエネルギーを呼び起こしてくれる可能性を秘めていることだろう。
人生も一つの旅であり、人によっては長くもあり短くもあるが、できるならば、気が置けない愛しき人を道連れに、希望に満ちた楽しい旅をしたいものである、北の大地の大自然に包まれながら、そんな物思いにふける今年の夏でもあった。
ふく☆ぺん
駿河堂MaG編集部 編集顧問