京の初夏から夏
半夏生、祇園会、菓匠会
半夏の頃を迎えた。
半夏生とは、夏至から数えて11日目、太陽暦では7月2日頃。同時に水辺の植物の名。生育すると60センチ程の丈になる。頂の葉の下半分が白くなる。そして先端に白い穂状の花を付けるので、頭頂部が白い花のように見える。以前は、各地の池や沼で見掛けたのが、開発などで減ってしまった。
それでも好きな等持院さん等には、見事な群落が繁る。この寺は臨済宗天龍寺派、足利尊氏の創建。代々の将軍の像が並ぶ、足利家の菩提寺。水面に清楚な影を宿す花のかたわらに、あなたの和服姿を映したい。静かに初夏の風が渡って行く。
七月に入って、京の中心部はどこにいっても、耳の底でコンチキチン、コンチキチンという祭囃子が聴こえてくる。祇園会は1100年の歴史を持つ京都八坂神社の祭礼。由来は貞観11(869)年全国に疫病がはやり、多くの死者が出た。人々は、これを牛頭天王という神の祟りであるとして、鎮めるための祭事を催したのが起源といわれる。以来いろいろな変化を経、町衆の祭りとして根を下ろした。悪疫を祓う意味から鉾と山と呼ばれる力強い山車が、祭りを豪華に盛り立てている。やがて、街並みの祭提灯や山車の提灯に灯がともされ、街全体が華やぐ。人々の心は祭囃子の中に昂揚する。故郷を持たぬ者にとっても、ふと、自分の故郷のような想いにとらわれることもあった。
そして、祭の前夜、賑やかな宵山を経、17日の山鉾巡行へ。祭の頂点の行列が進む。照りつける暑い、暑い陽光の下。
一方、街の喧騒をよそに16日には祇園社の常盤新殿で、神様に茶を差し上げる献茶会が両千家交互で催されている。今年は因みに裏千家。献茶に協賛する「菓匠会」の銘菓出品も。菓匠会は、古都で百年以上の歴史を誇る上菓子の老舗約20店の会。同館地下の会場に、例年共通の題で出品を競う。今年は"夏の彩"。さて、どんな菓子が現れるか。招かれた客は、主人達との出会いを楽しみ、出品を賞で、供された茶菓をしみじみと味わう。
しかし、この会も訪ねはじめて、はや半世紀、変化も多々。去って往ったもの、世代交替も。集う主人達も紋付袴から、若い洋服姿が数を増した。旧知の主人達と、男の高級な和服姿を眺めながら、今日は呉服の品評会かと、戯れ口をきいたのも昔話に。
時は過ぎ、変化と調和して行くのも現代だろう。

1937年生まれ。慶大経済学部卒、総合商社、大手石油会社などを経てフリージャーナリストとして独立。国際政治・経済問題から芸術文化、和菓子の研究まで豊富な知識と深い見識で執筆活動を続けている。