福島県喜多方市、
降りしきる雪のむこうにぼんやり灯る赤提灯
夕方から降りつづいた雪が、激しさを増してきた。
むかった店は、随分遠く思えた。
ここは福島県喜多方市。繁盛店があると聞き、立ち寄ろうとやって来た。
降りしきるシャワーのような雪のなかに、赤提灯がボンヤリ見える。
「焼鳥 玉川」だ。喜多方市字御清水。
木造の戸を引くと、いきなり、湯気と喧騒に襲われた。
暗く狭い店内、夕方にもかかわらず、大半の客が酔って大騒ぎ。
店の奥から、野太い声がした。
「満席だよ!」
「流行っていると聞いたので来たンだ。一杯飲ませてくれないか・・・・?」
煙がもうもうと立ち込める店内から、大きな男がぬうっと現れた。
「東京から・・・・?こんな雪じゃ、帰すのも可哀そうだ。席は今作るヨ」
ビールの空箱を二つ、紐で結わいて置いてくれた。
身体が芯から冷えていた。
お湯割りを頼んだ。
出て来たグラスの中身は、焼酎のお湯割りと言うより、熱い焼酎そのものだった。「濃いな!」
思わず声が出た。
焼き鳥は100gの超デカイ串焼き。
ネギ間、レバー、皮、甘辛いたれに、唐辛子味噌。
冷えた身体が徐々に温まってくる。
「焼鳥、デッカイね!」
接客していた無口な女が、
「お客さん、この辺じゃこれくらいやらないと、客が来てくんないヨ!」
と笑ってこたえる。
店内が落ちつき、オヤジがやっと話してくれた。
昭和40年、トラック運転手で深夜の国道を走っていたと言う。
「あの頃は、一晩で随分稼いだ。十日働けば、二週間は遊んで暮らせたな~。60年頃から、ヤマトだ、佐川だと、競争が激しくなり、トラックじぁ金にならなくなった・・・・。無理して事故をやっちまって、帰ってきて、この女と呑み屋を始めたンだが、客なんか入りゃせんワ・・・・。
もともと無い頭で考えた。飲み介の気持ちになれば簡単ヨ!
焼酎は濃いほうがいい、
焼鳥はデカイほうがいい、
おしんこは大盛りがいいンだ・・・・
その結果が・・・・これよ」
それ以上、オヤジは話してくれなかった。
オヤジの話は理にかなっている。高尚な経営論など、ここでは何の役にもたたない。リアルな経営者の経験談のなかにこそ、真実が隠されていると感じた。
会計を済ませて外に出た。
雪はすでにやみ、遠くの山の稜線が暗闇に浮かんでいる。
そのうえに、黄色い冬の月が、にぶく輝いていた。
最終の会津若松駅行列車の時間が、もうそろそろやってくる。
フワフワの真綿のような雪を踏みしめ、私は駅への道を急いだ。
文・高桑 隆
1950年、北海道生まれ。神奈川大学経済学部卒、大手外食産業勤務を経て、1999年、(有)日本フードサービスブレインを設立。飲食店経営指導専門、飲食店の売上向上対策、農家レストラン開業指導、具体的で効果的な指導を実施。服部栄養専門学校、桜美林大学にて教鞭も振う。この分野では、経験豊富なコンサルタント。