夢見人の起業物語 ~その1~
「いつか、ロンドンのHarrods百貨店で
スコーンを売るのが夢・・・・」と語る女性起業家
“起業したいのですが・・・・相談に乗ってくれませんか?”
そう、問いかけてくる若い人が多い。一応話は聞くが、たいがい“辞めた方が良いよ”と諭している。
「起業成功率」という統計数値より、現実はもっともっと厳しい。私の経験から言えば、99%の失敗、1%の成功。それが『起業』の現実の姿だ。
ところが、そんな私の忠告などどこ吹く風。次々に、“暴風雨のような、世間という荒海”に船出してゆく、起業チャレンジャーはあとを絶たない。
10年前に知り合った、根本好美さん(50歳)。茨城県水戸市郊外の住宅街に、ピンク色の可愛い外観の「スコーンドルフィン」を経営している。英国風スコーンを製造販売するスコーン専門店。今回は、根本さんの起業物語である。
「スコーン(scone)」について少し説明しよう。日本ではスコーンはお菓子の部類だが、正式にはスコットランド料理でパンの仲間である。中世オランダ語で「白いパン」を意味するスコーンブロート(schoon-brood)に由来し、小麦粉やオートミールに、ベーキングパウダーを加え牛乳で練り、オーブンで焼き上げた、柔らかいビスケット風な食べ物である。英国ではスコーンだが、米国では「ホットビスケット」と呼ばれる。
紅茶に、スコーンは欠かせない。英国では、午後の陽だまりの中で、ジャムやクロテッドクリーム(*)を添え優雅にお茶を飲む習慣を「クリームティー」または、「アフタヌーンティー」と呼ぶ。
根本さんは茨城県水戸市出身。実家は、水戸の商店街で洋服の仕立屋を営んできた。20歳を過ぎたころ、単身カナダに渡航。カナディアン・ロッキー山脈の中心的観光地であるアルバータ州バンフの店に勤めながら、外国生活を満喫。その時出会ったのが、紅茶とスコーンと、バナナを練りこんだパウンドケーキ「バナナ・ブレット」だった。
広大な大自然が広がるカナダ。カナダ人たちは、おおらかで優しい。寒い冬を友達や家族と集い、紅茶を飲みながらスコーンやバナナ・ブレットを食べた。
その思い出が、帰国後スコーン作りを始めるきっかけになった。本場英国風スコーンが評判を呼び、様々なところから“バナナ・ブレットやスコーンを販売させてほしい、仕入れて売りたい! ”要望が寄せられた。
15年ほど前、庭の一角に小さな作業場を作り、本格的なスコーンづくりが始まった。ネット販売をスタートさせると、アクセス数はうなぎ上り、注文が次々と舞い込んだ。
ところが、好事魔多し。普通の主婦が起業する際につまずく原因は、家事と仕事との両立。
スコーンの製造、ネット販売、発送のための梱包、各店へ配送、食材の仕入れ交渉など、雑務に追われる日々。一方家庭内は、遊び盛りの息子3人、仕事が無くプラプラしている歯科技工士の夫。彼女の疲労は限界に達していた。
彼女は悩み、そして茨城県商工会連合会を通して、“事業の今後について専門家のアドバイスが欲しい”と依頼する。こうして彼女に出会った。
笠間市商工会の会議室で話を聞きながら、“1日のネット検索数2000回”、“スコーン年間受注数3万個”という、驚異的な数値に驚いた。
“根本さんは、スコーン作りに生きるべきだ!”とっさに思った私は、彼女にこうアドバイスした。
「大事を成そうとしたら、覚悟をしなければならない。自分の進む道を決めなさい。できれば、実家のある水戸市に店舗を開店し、そこを拠点としてスコーン作りに邁進すべきだと思う・・・・」
その後、水戸市の住宅街に店を開店。流行の雑誌やマスコミに取り上げられ、人気に火がついた。今でも年に一度、ロンドンやスコットランドを訪問し、美味しいスコーンの研究にも余念がない。この10年間、機会あるごとに彼女に会い、助言し、起業の経緯を見守ってきた。
ネットの書き込みを拝見させてもらうと、熱烈な女性ファンの熱いメッセージが書き込まれていた。百貨店の催事販売も好調で、「いつか、ロンドンのHarrods百貨店でスコーンを売るのが夢・・・・」と語る根本さん。彼女は今、表舞台への階段を着実に登っている。
* クロテッドクリーム(Clotted cream)は、イギリスの南西部・デヴォン州で2000年以上も前から作られてきた、イギリスの伝統的クリーム。ジャムとともにスコーンに付け食べられるのが一般的。
文:高桑 隆
1950年、北海道生まれ。神奈川大学経済学部卒、大手外食産業勤務を経て、1999年、(有)日本フードサービスブレインを設立。飲食店経営指導専門、飲食店の売上向上対策、農家レストラン開業指導、具体的で効果的な指導を実施。服部栄養専門学校、桜美林大学にて教鞭も振う。この分野では、経験豊富なコンサルタント。
〉関連情報
スコーンドルフィン
住所:〒311-4145 茨城県水戸市双葉台1-1775-26
TEL:029-291-5535
URL:http://dolphin-st.com/
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