着物の極意 ~きものが廃れる3Kとは?~
「きものは着てなんぼ、遊んでなんぼやで」
・・・・と啖呵(たんか)を切って、華々しくこのシリーズをスタートさせようと思いましたが・・・。
おそらく、日本人の方々は、着物の良さや美しさを理解していますし、着ることにも躊躇はないはずです。ですが、生活様式がほとんど欧米化している現代では、着物を着ること自体が困難になっています。
はっきり言ってしまえば、着物を着なければならない大義名分がない以上、着ることも、着る必要もなく、別に困りもしないのです。一生涯、着物を着ないことも充分あり得ます。
着物を持っている方でも、家のどこかでひっそりと古びてしまっていたり、もう着ないからと思い切って処分された方もいらっしゃることでしょう。
私の友人の方は、呉服屋さんに言われるままに着物をあつらえて、着ないままどんな色柄だったのかも忘れ、一年以上も後にしつけ糸のついたままの着物を「発見」して驚いていました。平均的に見ても、着物を着る機会の多い人だと思いますが、それでもそんなことが起きてしまうのです。洋服もそうですが、よほどお気に入りでもない限り、頻繁に着る機会のないものは、忘れてしまいがちです。
現代の日本人にとって、着物とはどんな存在なのでしょう。
京都の街中や、東京の浅草などでは、華やかな色柄の着物姿の女子やカップルで賑わっています。また、成人式や卒業式、結婚式などでは、着物は不動の人気があるようです。夏祭や花火大会ともなれば、初々しい浴衣姿の若者が電車にも街中にもあふれています。それらのことから、着物に魅力を感じていて、機会があれば着てみたいと思っている若い方達が多いというのも伺い知ることができます。
しかしながら、そういった場所やイベント以外では、滅多に着物姿の人を見かけることはなく、限りなくゼロに近いという状況です。日中、着物で電車に乗っていたりすると、「何かイベントがあるのですか?」とよく声をかけられますが、着物は特別な時に着る物という認識になっていると感じます。
そうしたイベント性(着物を着る機会)を上手に活かし、「着付け」と「お財布事情(価格)」などの問題をコンパクトにクリアして、着物を手軽で身近に提供してくれるのがレンタル産業ですが、一部の日本の伝統的な場所や、人生に一度きりのビッグイベント用としての、ほんの一瞬の衣装(コスプレ)としての意味合いを強いものにしているのもまた事実です。
総合しますと、現代においては「着付け」「機会」「お金」の3K問題がクリアされてこその着物ということです。3Kのうち、どのKが抜けても、着物を着るには至らないわけです。
しかも・・・・、その3Kに関して、あたかも伝統的な決まりがあるかのように、頑(かたく)なに姿勢を変えない着物業界が存在することも、更に着物を遠ざける要因となっています。その中で、最も不遇なのが当の着物を作っている職人さん達というのですから、着物産業が「斜陽産業」と言われるのも理解できます。
これほど日本の生活様式が変化しているのにも関わらず、着物をとりまく様式が変わらなければ、日常から切り離され、廃れてしまうのも当然のことです。
伝統文化である着物を守り、存続させていくためには、誰かが決めたきまりを守るのではなく、時代にあった柔軟な変化と、日常生活での自由な楽しみ方が必要なのです。
「お着物、着てみたいな♡」
着物に魅力を感じておられる皆様、私とともに着物の3K問題をクリアしながら、着物という伝統文化を日常の楽しみとして取り入れてまいりましょう。
東京在住。着物着付師資格を持つ。愛猫家。自宅で猫を飼う傍ら、近隣の野良猫の保護活動に協力している。趣味はコントラクトブリッジ。
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