りゅうたの『百戒』 第3話
幾多の苦難を乗り越えてきたグレートマスター・男の黒帯りゅうたが、
百の戒めと共に貴方へ贈る、実にパッとしない人生教訓。
ここに示された戒めを胸に刻み、同じ過ちが繰り返されない事を切に願う。
「ボロい船に乗るべからず」
ワシはS県のO島という所にいた。
二級小型船舶操縦士免許を取るためにだ。
なぜそんな免許を?
おとっつぁん、それは聞かない約束だろ。自分でもよく分からんのだよ。
だが免許は欲しい。
男に生まれたなら一度は呼ばれてみたい「キャプテン!」と。
そしてマネージャーの女子部員を放課後の部室で押し倒してみたい。
あれ? そのキャプテンと違う? まじ?
ともあれワシは国家試験免除の1週間講習に参加することになった。
もうね、教える側は教える事があり過ぎ、覚える側は覚える事があり過ぎ、
結果として
「ハイ、この章は教えた事にするけん、皆さん習うた事にしてーや」
をやたらと繰り返すヌル~い講習に。
学科試験にいたっては「問題集の○番、○番、○番‥‥が出ますけん」
そう言われてその問題を丸暗記、全員ハイスコアで一発合格。
こんなんで大丈夫なん?日本の海は。
そして迎えた実技講習。
港に行くと、海に何かゴミが浮いている。
「あれが実習船ですけん」
海にゴミが浮いている。
「あれが実習船ですけん」
ゴミが
「あれが実習船ですけん」
‥‥これが!?
ワシに言わせれば「水に浮いてるのが不思議な粗大ゴミ」なんですが‥‥
同じ講習生のアベさんとミヤガワさんとワシ、先生の4人で乗り込む。
意外にも、イイ調子で港を離れ、軽快に大海原へ。
イヤ、気のせいだった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
あ~、うっせぇ。
飛ばすと気持ちいいが、とにかくボロ船で音がうるさく、会話は不可能。
おまけに凄い振動。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
ピ~~ン!‥‥
何かがワシのおでこに当たった。
ネジだった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!
ワシ「せんせー!!」
先生「ナニー!?」
ワシ「今ー! なんかー! ネジがー! ワシのおでこに飛んできたー!」
先生「何かのー! 部品がー! 外れたかもしれんー! 気にせんでー!」
気にするわい!!
そしてちょうど湾内真ん中(港からはかなり遠い)あたりに来た頃だった。
ガタガタガタガタガタガタガタ
ドカーン!!
プスススン‥スン‥‥シ~~~ン‥‥
先生「なんか‥‥今‥‥イヤな音がしたね‥‥」
ワシら「はぁ‥‥」
先生「りゅうたさん、ちょっとエンジンルーム見てや」
えぇ~?
ワシ、エフェクター(*)分解して組み立て直したら必ず部品が2~3個余る程のメカオンチな上に、「車はダイハツ」て決めてる程エンジンにこだわりのない男なのに~。
分かんないよ~。
とりあえずエンジンルームを見る。
フムフム、アッハ~ン? なるほど~。異常ナシ‥‥かな?
先生「どうでした?」
ワシ「イヤ、まぁ特に‥‥」
先生「じゃあ何だったんかなぁ?」
ワシ「あのぅ、ちょっと質問イイですか?」
先生「どうぞ」
ワシ「エンジンルームて、水が少々溜まってるモンなんですよね?」
先生「そうですよ、それをビルジ(船底に溜まる水)と言います」
ワシ「もしも、ですよ。エンジンから水がブッシュブッシュ溢れててエンジンルームが水浸しだったらどうなんスか?」
先生「それはダメです。その船沈みます」
ワシ「‥‥今‥‥その状態なんですが‥‥」
先生「ぬわにぃ!!!?」
そう、エンジンからはブッヒャブヒャと冷却水(汲み上げた海水)が吹き上げ、ルーム内は足首くらいまで水が溜まっていた所だったのだ。
ハハ~ン、やっぱダメ?
「し、し、沈むがな!!!」
とりあえず海水を汲み上げさせないよう、エンジンを止める。
これで浸水は止まったものの、オヤジ4人を乗せた小舟は海のド真ん中でプカプカと漂流する事となった。
行きは爆音、帰りは怖~いBGMで
暮れたね、途方に。
その時の4人の途方の暮れ方といったら、そりゃもうホレボレするほど見事な暮れっぷりであった。
先生「港に‥‥帰ろっか‥‥」
ワシら「‥‥どうやって?」
先生「‥‥‥‥こいで‥‥‥‥」
オイ、目を見て言え。
「ウフ、アハ、ヤダァ~」とキャピりながらカップルで乗る井の頭公園のラブリーボートからは、M78星雲くらいほど遠いボート漕ぎ。
エンジンルームでは「タプンッ」「ちゃぽんっ」という恐怖のサウンド・フロム・ヘル。
真顔のオヤジ4人、無言でひたすら港をめざす。
亀よりもノロいスピードで。
追い討ちをかけるように空からは雨。もうボロクソ。
だが田舎ジイさんの先生、ハジケちゃったのか意外とノホホンとしている。
「ま、ノンビリ行きましょうや」
いやノンビリしてちゃマズいだろ。
そして彼はおもむろに語り始めた。
「ワシの漁船な、『恵丸』言うんですわ。カアチャンの名前が『恵』なモンですけ、恵丸にしたんですわ。友達は『お前、昼間カアチャンに乗って夜もカアチャンに乗るんかいな』てからかうんですわ。ウッヒャッヒャ!」
沈みそうな船で、ヌル~いオヤジギャグをBGMに、延々とたどり着けない港へ、亀のように進む‥‥
なんかワシの「人生の縮図」のような一日だった。
文:アブラ リュウタ
爆音FunkyおっさんR&Rバンド「アブラジョー(Aburajoe)」のギターヴォーカル。趣味は、ギターと自転車と温泉と酒と夏と海と猫と手羽先と蕎麦とオネーちゃん。鳥取県米子市出身。2月4日生まれA型。
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