「味覚で巡る、基本の京都」一日目
学生時代の修学旅行を始めとして、幾度か訪れている京都。
旅をするにあたり、メンバー、人数、目的、滞在日数、予算などによって内容は変ってきますが、今まで「食(食事)」を中心とした予定を組んだことはありませんでした。
まずは「場所(観光)」ありきで、例えば、南禅寺に行くのであれば、ついでに有名な湯豆腐を食べようとか、金閣寺なら、そこにしかない銘菓「金閣」をお抹茶と一緒にいただこうか、といった感じ。
今回は、取材に乗じて、二泊三日の京都旅をしましたが、計画するにあたり、京都に大変造詣が深い方にアドバイスをいただいていました。場所にもさることながら、食にも精通していらっしゃるので、「この場所でのお土産は、このお店のこれ」、「この美術館を観たら、すぐ隣のこのお店で食事して、少し歩いたところにある菓子匠に寄ってみる」、「朝食には、この老舗のパン屋さんのこれが美味しい」・・・・ということで、朝昼晩の食事と、菓子匠巡りを中心にして、観光スケジュールを組みました。
この、初めて「食」を中心に巡った今回の京都旅。意外にも、今までになく京都の風土や歴史、気質などをより興味深く感じられるものとなりました。学校で学んだ日本史から入ると面倒に思われるものも、美味しいものから入ると、すうっと京都が見えてくるような気がします。
老舗の味と、古の風情を楽しむ
この度の京都旅を、写真とともにふり返ります。
一日目、京都駅から北へタクシーで約40分、京都の奥座敷として人気が高い、貴船、鞍馬方面へ。
貴船は、貴船川上流に貴船神社が鎮座し、夏の川床料理(鮎、鱧など)や蛍鑑賞、秋の紅葉と、四季を通じての観光名所。川のせせらぎ、清々しい空気。時間があれば川沿いをゆっくり散策したいところです。
貴船神社は水神を祀っており、貴船川源流から流れる神水をいただくことができました。その神水に浸して占うおみくじ「水占い」は、なかなか神秘的。
水関連の料理業などの商売をする人々の信仰をはじめとし、縁結び、縁切り(丑の刻参り)の神としても有名。
また、天候の祈願の際に馬を奉納した由来から、絵馬が発祥したといわれています。
貴船からタクシーで約10分、鞍馬へと移動。
鞍馬は牛若丸(源義経)が修行をした地として、また、能の『鞍馬天狗』でも有名。鞍馬寺は、貴船神社とのつながりも深い。門番は、狛犬ではなく、珍しく虎。
ここで、最初の「食」の目的地に直行。
鞍馬寺仁王門の近くに「岸本柳蔵老舗」はありました。こちらの「鞍馬しぐれ」が目当て。ご飯に、またお酒のアテとして、本当によく合うという逸品。店先で試食し納得!ここでしか入手できないということで、即購入しました。茎ワカメを実山椒と一緒にお醤油で炊いた佃煮「鞍馬しぐれ」。この地域では、古くから周辺の山々で採れる山菜で塩漬けをつくり、保存食として常備していたそう。でも、山菜やきのこはわかるけれど、この山の中で、なぜワカメ?と、少々疑問に。
なんでも、お店の前の通りは、京都と福井を結ぶ「若狭街道」といって、昔は、若狭から、鯖や昆布などを運んでいたとのこと。それでワカメも調達できたわけです。
さて、お目当てのお土産を入手した後は、車でほんの2、3分のくらま温泉へ。露天風呂に入るかどうか迷いましたが、昼食を優先。広いお座敷のお食事処で、うどんや
山菜釜飯、出汁巻き卵をいただきました。
- 岸本柳蔵老舗の「鞍馬しぐれ」(手前)
山を下り、京都市役所周辺の市街へ。
「食」の目的地、「亀屋良永」。御池通りと寺町通りの角、本能寺と向き合う京菓子の老舗。一千有余年にも及ぶ優れた伝統を守る「菓匠会」の一員。
「もう一度食べたい」「食べるととまらない」と人気の御池煎餅、棹菓子や季節限定の生菓子が、美しく楚々と飾られていました。
御池煎餅は、本店以外でも京都駅や京都市内の有名百貨店などで購入可能。それ以外は、本店のみでの販売。通販はありません。つまり、京都に行かないと買えません。
このこだわり、個人的には好きです。以前、地方に行って購入したお土産と全く同じものが、東京駅や羽田空港でも販売されているのを見て、少し不愉快になった思い出が。
便利で、価値が変わるものでもないことはわかりますが、やはり対面販売という昔ながらの形には、信用と責任、思いやりを感じます。
- 「御池煎餅」(左)と大原路シリーズの「秋の山」(右)
- 秋季限定の「山づと」
- 棹菓子「時の流れ」。織田家の家紋と明智家の家紋が刻まれている。
次の「食」の目的地に移動する前に、「北野さん、天神さん(菅原道真公)」こと北野天満宮に参拝。自分の頭をなでてから、牛の頭をなで・・・・ひたすらに頭が良くなるようにと祈願。梅と紅葉の名所です。
北野さんから車で約20分弱、鴨川を渡って間もなくの二条通りに面する「京華堂利保」へ。シックで品格のある黒い暖簾と佇まいが印象的な、菓匠会会員の老舗菓子匠。三千家の一つ武者小路千家とのつながりが深く、銘菓「濤々(とうとう)」はその関連から完成されたとのこと。この濤々も、御池煎餅と同様、京都を訪れたらぜひとも購入したい逸品です。また、季節を手描きした「清風せんべい」は、お茶の時間を雅に華やかにしてくれること間違いありません。生菓子は注文のみとのことです。
- 季節毎の花々を描いた「清風せんべい」
- 俳菓「しぐれ傘」(手前)、銘菓「濤々(とうとう)」(奥)
一日目の夕食は、「京の焼肉処 弘」(八条口店)にて。京都肉をいただける人気店のため、予約必須です。京都の和牛の歴史は古く、高品質のブランド牛として高い評価を得ています。様々な部位のお肉を少しずついただけるコースで、京都肉を味わいました。
この日は幸運なことに、お店から東寺通りをまっすぐ歩いて約15分、夜間特別拝観期間中のライトアップされた東寺と、仏像を観ることができました。日中とは違う、静寂と幽玄の世界、歴史の威厳といった雰囲気を沈黙のうちに感じました。
奥ゆかしいいにしえの京都だけに、お話は尽きません。次号は、引き続き菓子匠に加え、京料理の名店についてお伝えしたいと思います。
写真:前田 政昭